人は歩いたり走ったりする時に、意識しなくても自然に腕を振っていますが、荷物を持ったり、ポケットに手を入れると、片腕もしくは両腕を振らないで歩くことも多いので、歩くことに腕を振ることは必要な動作ではないと思ってしまいます。しかし、腕を振ることは、歩行をリズミカルにして、安定させるには欠くことの出来ない要素なのです。歩行中の腕振りに関する研究によると、歩行中、腕を強制的に固定しても腕振りに関連した筋から筋活動が認められることが報告されています。このことから、腕の振りは単なる振り子運動ではなく、歩行を円滑に執り行うため中枢神経系に組み込まれた機構の1つと考えられています。
腕振りの角度の違い(45°、60°、90°)がバランスにどのように影響するかを、重心動揺計により検討した報告によると、腕振りを60°以上に強調することで、重心位置は安定することが明らかとなっています。つまり、腕を60°以上にしっかり振って歩くことで、それ自体が外乱刺激として作用し、体幹運動が制御されるために、重心の過度な動揺が抑制されるので、腕をしっかり振ることにより重心位置のバラツキや動揺を防ぐことができ、安定した歩行に繋がります。腕振りの調査では、1.腕振りなし、2.片手振り、3.両手振りの3通りの歩行を比較すると、両手振りが最も速く、腕振りをなくした時が遅くなったと報告しています。また、歩幅も同様に、両手振りが最も大きくなり、腕振りをなくした時が小さくなったと報告しています。
四足動物では、前肢と後肢の協調的な動作発現に、脊髄ー腰髄間を連絡する神経経路が重要な役割を果たすことが明らかになっており、この神経経路自体は人でも存在するという報告があります。四足歩行から二足歩行に移行した人の歩行において、腕振り運動がこの神経経路を通して下肢の運動に影響を及ぼしており、上肢と下肢の協調的な運動(すなわち歩行時の腕振り)は、神経経路としてコントロールされている不可欠なものと考えられます。つまり、腕を振ることが運動のリズムを高め、歩幅を大きく取ることを可能にします。最近、歩行に不安を抱えておられる方は、腕の振りを大きくすることで歩行は安定し、歩行スピードもあがりますよ。
by ドクトル・ノブ
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